True Colors JAZZ– 異才 meets セカイ Directed by Takashi Matsunaga 大阪公演公式レポート

ジャズ・セッションが想像させる
多様性の在り方

「生きてきた背景が違う人たちが、そもそも多様性が含まれている“音楽”を目的に集まっている。ステージではそこを表現できれば、と考えていたんですが、今日はそれを良い形で伝えることができたんじゃないかと思いますね。もう、みんなが笑顔になれたことがなにより良かった!」。これは終演後すぐの楽屋でピアニスト松永貴志が興奮気味に語ってくれた言葉。2020年1月4日、彼がディレクターを務める『True Colors JAZZ – 異才 meets セカイ』がビルボードライブ大阪で行われた。

このプログラムは“超ダイバーシティー芸術祭”をサブタイトルに掲げ、アートやパフォーマンスを通じ、より良い共生社会を目指すプロジェクト『True Colors Festival』、その一環となるジャズ・パフォーマンス編。この日、ステージに登場したミュージシャンは松永を始め、ピアニストの紀平凱成、ヴォーカリストの小澤綾子、トランペッターの黒田卓也、そしてベーシストのデレック・K・ショートとドラマーのナカタニタツヤの計6名。2回公演で1st ステージは正月早々にも関わらずソールドアウトの満員御礼となった。

まず、開演前に松永が紀平凱成と小澤綾子を紹介する短い映像(これは現在このウェブサイトで見ることもできる)が再生された後、松永がステージに登場。彼のピアノ・ソロ演奏からコンサートがスタートした。そして「今年はきっと新しい時代に突入する。新しい風の吹く1年になると思う。このコンサートがその幕開けとなれば」と意気込みを語り、最初のゲスト、ピアニストの紀平凱成を呼び込んだ。紀平は若干18歳ながら、これまで国内のみならず数多くの受賞歴を持つ“異才”。彼はステージに上がると会場全体を怪訝そうに見渡すも、ひとたび鍵盤に向かうと、まったく迷いのない力強い演奏を披露。松永いわく「凱成くんのピアノは人を惹きつける力があるんですよね。なにより楽しそうに演奏している。その楽しさはお客さんにも伝わるんです。それは音楽家にとっては重要なことなんです。凱成くんはそれがちゃんとある音楽家なんですね」。その言葉通り、まるで鍵盤を身体の一部にするかのごとくピアノの世界に没入し、全身で幸せそうに演奏する姿は印象的なのだった。ロシアの作曲家ニコライ・カプースチンの楽曲を軽々と、そして予測不能な時間感覚を持つような自作のラグタイム・ナンバーで会場の耳をぐっと引き寄せた。このナンバーは彼が中学1年生の頃に作った曲だそうで、松永もびっくり。

続いて、この日のひとつのハイライトともいえる、松永との連弾で即興を披露する。当初1曲のみのコラボレーションだったそうなのだが、会場の空気に慣れて、調子が上がってきたのか? 紀平が「もう一曲やる」と宣言。それはアクロバティックに疾走するかなり激しいインプロヴィゼーションだったが、ひとつの鍵盤を共有するふたりは年齢もキャリアも関係なく、まるで古くからのセッション仲間のように見えるのだった。この即興について、松永はこうコメントしている。「凱成くんが即興をもう1曲やりたい、って言ってくれて。これにはちょっと驚きましたけど(笑)、会場がかなり暖かい雰囲気だったのでとても嬉しかったですね。(今回の試みでは)新しいことをやってもいいんだ、と凱成くんには感じて欲しかったんですね。それが彼の未来に向けた経験になってくれたら嬉しいと思います」。いうなれば松永自身も17歳でデビューした“異才”の先輩、だからこそ紀平の唯一無二なプレイとその世界観にできるだけ寄り添って背中を押したい、そんな気持ちがあったのかもしれない。

目指す音楽は
完璧なものでなくても良い

その後は、名うてのプレイヤー、デレック・K・ショート、ナカタニタツヤを迎えたピアノトリオによるセッション。ラベルの「ボレロ」と松永の「時の砂」を演奏。そしてヴォーカリストの小澤綾子がステージの奥から車椅子で登場した。「ふだんはジャズの中で歌う機会はなかなかない」という彼女、まずは意外にも? 中島みゆきの「糸」を勢いあるピアノトリオ・アレンジで披露する。これぞ今回のプロジェクトならではの出会いと演奏だったのでは。まさに冒頭の松永の言葉、「生きてきた背景が違う人たち」がひとつの流れを作っていくような、のびやかな歌と演奏。このセッションでは、ひとりひとりバラバラのプレイヤーの個性やクセを活かしながら混ぜる、というジャズが持つ懐の深さを今一度確認することができた。と同時にジャズにおけるセッションというものがただステージ上の演奏者たちのみに限られたコミュニケーションではないことも再認識することができた。会場は食事の手を止め拍手喝采、その場にいるものをぐいぐいとセッションの輪に巻き込んでいくような様は、なんとも痛快なのだった。ダイバーシティーの観点から、いや、わざわざその視点でなくとも、来場者はこのセッションが想像させた多様性の在り方、その可能性を見ずにはいられなかったのではないだろうか。

小澤はMCで自身に筋ジストロフィーの病気があり車椅子に乗っていること、そして普段行っている歌と講演活動では「ひとりひとりが違うからこそこの世界は楽しい」というメッセージを伝えていることを語った。加えて「今年はオリンピック・パラリンピックイヤーがある。それはスポーツの祭典だが、多様性を日本が受け入れる大きな機会でもある。その多様性というところで同じ意味合いを持つ今回の『True Colors JAZZ』に出演することができて嬉しい」と話した。松永にこのセッションを振り返ってもらうと、「この『True Colors JAZZ』では、みんなの気持ちが共鳴していくことが大事。人の心の優しさはお互いに触れ合うことによって、どんどん伝染していくものだとあらためて思いましたね。会場にもそれが伝わっていたと思うし。優しさや愛が溢れるものになったんじゃないかなと思います。もう大阪、大好き!って感じです(笑)」、そう満足した笑みを浮かべ語ってくれた。続けて、こう話す。「目指す音楽は決して完璧なものでなくても良いというか、音楽にはいろんな側面、表情があるので。これからもひとりでも多くそれを見てもらえたら嬉しいし、凱成くんにも小澤さんにも感謝しています」。

その後は、松永がピアノトリオで自身の「神戸」を演奏。この曲は彼が17歳の頃に、阪神淡路大震災から復興していった、自身の出身地である神戸の夜景をイメージし作曲したのだという。リズミカルで流麗で、しかしながら強い意志を内包するようなナンバー。そこから松永と同じ、神戸出身で「中学生の時にセッションした」ことがあるというトランペッターの黒田卓也をステージに呼び込む。今回、約20年ぶりのセッションとなるそうだ。黒田は2003年に渡米し、本家アメリカのブルーノートと日本人として初めて契約しリーダー作をリリース、そしてDJプレミアのバンドやアコヤ・アフロビート・アンサンブルなど幅広く活躍するニューヨーク在住のトランペッター。ちなみに黒田も、松永と同じく「報道ステーション」のテーマ曲を手がけている。「今回、共演できることを心から本当に嬉しく思います」と久々の再会セッションを喜ぶ松永。同郷、それに同じジャズの世界にいながら、彼らもまた「生きてきた背景が違う」わけで、その再会が今回のプロジェクトであったことが、より意義のあることに思えてくるのだった。そしてジャズ、に限らずで知られるスタンダード・ナンバー「キャラバン」を演奏。この曲は松永のアルバム『TAKASHI』に収録。ということで、勝手知ったるフレーズをこれでもかと自由自在に崩す松永のプレイスタイルにまず驚いたが、徐々に高揚感を煽っていくナカタニタツヤのドラミング、デレック・K・ショートの手数の多いファンキーなベース、そこにサッチモスタイル? 頬を膨らませて演奏する黒田のドライブ感たっぷりのワイルドなトランペットが混じっていく。本編のラスト、そんな強靭な「キャラバン」に会場は聞き惚れたはず。

型にはまる必要のないものも
世の中には存在する

盛大な拍手の中、ふたたびメンバーがステージに登場し、6名のプレイヤー全員でアンコール「ルート66」を演奏。松永のピアノのイントロから、このスタンダードナンバーがどう展開していくのか? このメンバーだけに予測できない始まりであったけれど、それぞれの山あり谷ありのソロプレイに、それぞれが呼応しスウィングしていく。そして、このバラバラの6名だからこその「ルート66」で大団円を迎えたのだった。複数の楽器によるセッションをまるで会話のような、というのは紋切り型だけれど、自分のプレイを披露し、それを他のメンバーが対話するように支えていく。そんな協調の繰り返しが魅力となって伝わっていく。それはジャズのセッションならでは魅力なのかもしれない。松永いわく「やっぱりかっこいいんですよ、ミュージシャンというのは。今日はほんとにみんなかっこよかった。それが嬉しいんですよね」。

最後にあらためて松永にディレクターとしてこのプロジェクトが目指すところを教えてもらった。まだまだ挑戦してみたい可能性がある、と言わんばかりに終演後の楽屋では新たなるセッションへの気概が感じられたがどうだろう。今後の『True Colors JAZZ』の展開にも期待できる?
「型にはまらないもの、はまる必要のないものも世の中には存在するし、それが多様性の中に含まれていると思います。それは雲の流れがいつも同じではないように、音楽も楽譜がすべてではなく、表現をしようとする人がいれば、そこから音楽が始まると思うんです。だから今回の『True Colors JAZZ』は自由な捉え方をして欲しい。これからも、こういうプレイヤーがいて、こういう音楽もあるんだ、っていう気付きがひとりでも多くの人に広まればいいなと思っています」。

Text: Yusuke Nakamura
Photo: Yoshikazu Inoue

True Colors JAZZ – 異才 meets セカイ
[プログラム詳細]https://truecolors2020.jp/program/jazz/

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音が聞こえなくてもリズムはとれるし、楽しいです

True Colors DANCE参加者

MiCHi

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