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True Colors ACADEMY

第2回目スタジオ活動レポート

アクセシビリティの在り方をどうズラす?

公募で選ばれた44名のメンバーと共に、毎月様々なダイバーシティのテーマに基づきワークショップを開催する「STUDIO(スタジオ)」プログラム。第二回目のテーマは「アクセシビリティ」。生活に必要な移動だけでなく、展示や演劇など「鑑賞」の仕方や体験はどのようにアップデートできるのか?そんな問いを元に世田谷パブリックシアター、青山スパイラルの2箇所の文化施設を舞台にフィールドワークを実施し、得た体験から「新しいアクセシビリティ」をチームごとに形作った。

「小さなあきらめ」を工夫や遊び心で乗り越える

例えば、自分が車椅子を使い友達と新幹線を利用するシーンを想像してみる。駅のホームには小さな段差や隙間があり車椅子で自由に進行することが難しく、新幹線に乗車すると車椅子は指定の位置が決まっているため友達と離れて乗車しなければならない。そのため車内でのおしゃべりや旅の道中の楽しみを共有できない場合もある。移動をする体験のなかには、前者のように目に見える「物理的な障害」と、後者のように目には見えない「精神的な障害」があることに気づく。今回はフィールドワークを通じて、見えるアクセシビリティと見えないアクセシビリティの気づきを体験し、「小さなあきらめ」を工夫や遊び心で乗り越えるアイディアを制作する。

マイノリティは、ニュー・マジョリティに

今回ワークに入る前に、世界ゆるスポーツ協会の澤田 智洋さんによるインスピレーション・トークを実施した。「障害」や「できない」といった社会のマイノリティを「ヒント」として捉え直すことで、面白い解決策を生むことができる。「社会のなかで障害と感じることを積極的に集めていくことで、新たなマジョリティをつくることができる」というメッセージを胸に、街にリサーチに出かけた。

「移動体験と鑑賞体験」から小さなあきらめを発掘

世田谷パブリックシアターと青山スパイラルを舞台に、移動と鑑賞体験を実施した。メンバーはプレイヤーと記録・観察者に別れてペアになり、プレイヤーは「車椅子」や「カラーサングラス」などのアイテムを身につけ普段とは違う身体状況になることで、アクセシビリティに関する小さなあきらめを発掘していく。記録・観察者はプレイヤーの状況を観察し、どんな「あきらめ」があったのかを記録した。終了時間が過ぎても終わらないほど、各チームの議論は熱気を帯びていた。好奇心旺盛なスタジオメンバーならではの光景だ。制作期間は約1ヶ月。それぞれが更にリサーチを深めながら発表に向けて作品を形にしていった。

誰もが「自分らしく」いられる場所をつくる

いよいよ発表当日。今回は豊島(香川県)にある「島キッチン」などを設計した建築家の安部 良さんをゲストに迎え、人と環境が一つのコミュニティとして自然体でいられる場所のつくり方について自身のご活動を通して、お話をいただいた。人がくらしやすい場所の設計をするときに「コミュニティが見える場所」も設計することで、物理的なアクセシビリティだけでなく文化的なアクセシビリティも円滑にすることができる。アクセシビリティをアップデートする上で大切なメッセージを受け取った。

アクセシビリティをテーマにした作品発表

引き続き安部さんをオブザーバーに、ここからはメンバーが自分の身体と心を通して得た「小さなあきらめ」を工夫や遊び心で乗り越えるアイディアを形にした作品を発表していった。一つづつ紹介していく。
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No.01
作品名:感動共有装置 OTTO
作者:菊永 ふみ、杉原 賢、杉浦 草介、和田 夏美
体験した状況:耳が聞こえない・目が見えづらい

作品メッセージ:
作品の目の前で感想を表現できる & 他者の感動(感嘆)を聴ける装置。
作品の正面に「録音スペース」と「聴取スペース」を設けて、「録音スペース」では作品を観て出てきた感嘆の声(わあ!とか、へえ。とか)を録音する。「聴取スペース」では、蓄積した感嘆の声を集約した音声を流して、他の人が作品を観て感じたことを一挙に聴くことができる。(※ニコニコ動画の、画面にコメントがどばーっと流れてくるイメージ。)
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No.02
作品名:Do Not Cry?
作者:平良 恵、Janessa Louise Roque、銭 宇飛
体験した状況:小さな子供がいる親

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作品メッセージ:
メンバーの母国であるフィリピンでは、知らない人でも泣いている赤ちゃんがいたらあやしたり、手を差し伸べる習慣がある。日本でなぜそれがおこりづらいのか?親が肩身の狭い思いをしなくてはいけないのか?そんな問いを起点にこのチームでは、赤ちゃんが「泣く」という状況に対する社会の反応をズラすためのキャンペーンのアイディアを考えた。用意したのは「DO NOT CRY? すいません、赤ちゃんはこれをよめないのでそろそろ泣いちゃうかも」と書かれたステッカー。禁止マークを逆手にとり、見たい人に考えさせる作品だ。もう一つの仕掛けが、裏側に書かれたQRコード。これを読み込むと 「赤ちゃんはなんで泣いているの?」という質問に答える子供たちの声が流れてくる仕掛けになっている。
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No.03
作品名:Mode de hijiyou (モード・デ・ヒジュゥー)非自由で見えてくる発想の自由もある
作者:式地 香織、橋本 美和子、内田 直生
体験した状況:車椅子

作品メッセージ:
建物や状況を作る人たちは、どれほど多様な身体状況を感じ取れる「ボディ・アウェアネス」を持っているのだろうか?美術館や劇場のアクセシビリティの本質は「だれもが同じ感動を共有できる」ことではないか?その実現の為には、「私」以外の身体性を知らなければいけない。歩行困難や様々な身体的苦痛を伴うことを厭わなかったという、18世紀のファッションアイコン、マリーアントワネットを模したファッションで、出かけよう。その体験が、私たちに新しい身体性と、知のストックを与えてくれるだろう。
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No.04
作品名:A.P.G.(art play ground) 芸術観賞の感想を語り合う場所
作者:斉藤 有吾、福井 彩香、石川 楼丈
体験した状況:目が見えずらい、足が動きづらい

作品メッセージ:
芸術の感想を語り合う心理的な障壁を解決するために、専門家知識の有無を問わず老若男女が対等に共に考える手法である「哲学対話」を採用した対話のプログラムを考えた。「哲学対話」の手法に物理的なアクセシビリティと芸術鑑賞の観点で新たなルールを加えたのが「art play ground」である。「art play ground」は、主催者や場所の制限にとらわれず誰でも芸術鑑賞の感想を語り合うための装置としてこのプログラムを開発した。

いつもの体験をズラして見えてくる世界

実践的なところからヒントを得ていった今回の活動。「アクセシビリティを考えるとき、体感が足りていないということに気づかされた」「自分の身体をとおして感じることでの気付きの大切さを知った」など、普段と視点をズラしたことで他者の状況に対して新しい視点で向き合うことができた。また、彼らの作品からユーモアを通じて理解しあったり、意識を変えることができるという可能性も感じた。違和感や障害はユーモアで乗り換えられる。そんなメッセージをもらった第二回目のプログラムだった。

(執筆:武田 真梨子 / 編集:石川 由佳子)

True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

Meet The Family(TCFファミリーの素顔):ダレン・オドネル

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