ダイバーシティと当たり前に向き合う「場」をつくる: True Colors アテンダント中間レポート

誰もが楽しむことのできる場づくりを目指し、アクセシビリティを高める環境をつくる支援を行うボランティア、「True Colors アテンダント」。専門的なレクチャーや実践的な研修を経て、実際の公演運営に関わり、フェスティバルの一員として各演目で継続的に経験を積み重ねてきたアテンダントは、アーティストや来場者と並び、フェスティバルを成立させるために必要不可欠な存在です。

フェスティバルの理念を反映するかのように、アテンダントには障害のある方、大学で演劇を専攻する学生、NPO法人で活動している方、中国から日本の福祉を学びに来ている留学生など、多様な人々が参加しています。日本社会の中にもあるはずの人々のダイバーシティが鮮やかにあふれ、多様な人が混ざり合う場をつくるために、アテンダントたちは学び、考え、アーティストと来場者とをつなぐための活動をしてきました。

活動の集大成となるはずだった2020年7月のTrue Colors CONCERTは残念ながら中止となってしまいましたが、アテンダントの活動やそこで得たものはフェスティバルという場を越え、世界を変えていくための一人ひとりの実践へとつながっています。アテンダントはその活動を通してどのように「ダイバーシティ」と向き合ってきたのでしょう。学び、実践するなかで自らも変化してきたアテンダントの活動を中間報告として紹介します。

「知る・話す」で準備する

アテンダントの活動はまず「知る」ことからはじまりました。2019年9月には「ユニバーサルマナー検定」を受講。講師の株式会社ミライロ 薄葉幸恵さんは「自分とは違う誰かのことを思いやり、適切な理解のもとに行動すること。特別な知識や高度な技術は不要な、誰もが実践できる心遣い」を「ユニバーサルマナー」と呼ぶといいます。今回、アテンダントが受講した3級取得講座は「ユニバーサルマナーとは」「人と人との違いを考えよう」「どんな人がどんなことに困っているのか」「代表的なお声がけ方法」といった基本的な内容に加え、様々な状況にある人々の心理状況を考えるワークを行うもの。アテンダントは活動の基本的な姿勢をここで学びました。

10月は株式会社未来言語 代表取締役 永野将司さんと共同代表 菊永ふみさんによる「言葉に頼らないアテンド」講習を受講。前半の講義では「普通の」コミュニケーションを見直すような視点が提示されました。「視覚言語である手話も、音声言語と対等であるはず」と菊永さんは言います。自分にとっての「普通」がしばしば「自分本位」であり、それがときにコミュニケーションにおける障害を、他者の生きづらさを生み出していることに気づかされる講義でした。後半は全員参加のディスカッション。「言語の壁を超えるためになにができるのか」というテーマのもと、それぞれが率直に意見を交わしました。コミュニケーションの定義から、自分と相手の価値観が違うことの面倒くささはどう乗り越えるのかというテーマまで、様々な話題が取り上げられました。
*2019年9月と10月の講習レポートはこちらから

2つの研修を踏まえ、11・12月は具体的なシチュエーションを想定してのグループワークでより実践的な対応力と想像力を養っていきました。「これまでに実施されたプログラムでよりアクセシビリティを高めるためにはどのような対応が考えられたのか?」、「それは今後にどのように活かせるのか?」など、気づいたことを互いに話し合い次につなげていくサイクルが自然と生まれていきました。

2020年2月にはどのようなニーズのお客様でも楽しめる舞台鑑賞をデザインする南部充央さんを講師に迎え、プログラムの現場での研修の機会も設けられました。南部さんはTrue Colors MUSICAL ファマリー「ホンク!〜みにくいアヒルの子〜」を担当した株式会社リアライズの代表を務めています。アテンダントは実際に使われる「ホンク!」の運営マニュアルを参照しながら、劇場で様々なお客様の対応をするときに大切なマインドや工夫を理解していきます。その後、アテンダントは実際に視覚障害の方や車椅子の方のご案内をする体験実習にも取り組みました。
*南部さんへのMUSICALに関するインタビューはこちらから

「支える」ことで生まれる気づき

研修での学びは現場での実践へ、そして現場での実践が新たな学びとなり、また次の現場での実践へとサイクルはつながっていきます。

2020年1月のTrue Colors JAZZでアテンダントは駅・会場間のルート案内や会場での案内を担いました。当日、全体ミーティングを終えたアテンダントは改めて会場内の導線チェック、駅・会場間のルート確認に向かうことに。特に路上は時間帯や曜日によって様子がまったく違うこともあるため、入念なチェックをしたうえでなお柔軟な対応が必要になります。

車椅子の方、視覚障害の方にも同行していただき、案内の際に気をつけるべきことをうかがいました。人によってサポートが必要な内容は様々であり、まず大切になるのは相手の望むことをきちんと聞くこと。サポートするとなるとつい過剰になりがちですが、たとえば一口に「車椅子で通りやすいルート」といっても人によってそれは少しずつ違います。相手のニーズに合わせたサポートを行うことが大原則であり、そのためにも「声かけ」が重要であることを改めて確認することとなりました。

2月のTrue Colors MUSICALはここまでに実施されたプログラムの中で最も多様な「鑑賞サポート」が用意され、タッチツアー・事前解説のアテンド、鑑賞サポート機器の貸し出し補助、客席内での誘導補助などアテンダントの役割も多岐にわたりました。コインロッカーの案内、お手洗いの補助、公演への質問など臨機応変な対応が求められる場面も多く、アテンダント以外のスタッフとの連携も含めて積極的な「声かけ」が自然と行われていました。「声かけ」はあらゆるコミュニケーションの基本なのです。

1日目の終演後には2日目の公演に備え、アテンダント同士でお互いが気づいたことを共有する時間が設けられました。体験をシェアすることでほかのメンバーの体験を自らの気づきにつなげることができるのもアテンダントの強みでしょう。

「気づき」から「実践」へ

活動に参加したアテンダントは「KPTAシート」を使って自分の活動を振り返り、「次」に向けた課題とその解決策を考えていきました。よかったことをKeepし、改善すべきProblemを洗い出し、新たにTryすることを考え、具体的なActionを設定する。このサイクルを繰り返してきたのです。「誰もが楽しむことのできる場づくり」のための決まった正解はなく、ここまでやればいいというゴールもありません。前提となる知識を共有することは大切ですが、同じように重要なのはそこからスタートして自分の行動を常に見直していく姿勢なのです。

アテンダントのひとりは活動を通じて自分に見えている世界だけが「真実」ではないことを意識するようになったといいます。これはアテンダントの活動やTrue Colors Festivalに限ったことではありません。自分には見えていない日常、世界があり、「だからチームで考える」ことが重要なのです。

また別のアテンダントが活動を通して改めて気づいたのは、障害が環境によって作られるものであるということ。「環境」のなかには私たち一人ひとりも含まれています。そのように考えれば「障害」の問題は「障害者」と呼ばれる人々だけでなく、この世界を生きる人間全員に直接関わる問題であることがわかります。環境、つまり社会が、私たちの一人ひとりが変わることが「障害」をなくしていくことにつながっているのです。

たとえば、親子連れを「障害者」だと考える人はいないでしょう。しかし、残念ながらベビーカーを伴う移動には多くの場所で大変な困難が伴うのが2020年の日本の現状です。建物や道路をすぐに改修することは難しいかもしれません。ただ、もし通りすがりの誰もがベビーカーを押す親に手助けを申し出る世界になればどうでしょう。「障害」の度合いは大きく減ることになるはずです。普段の生活でも「色々な人の立場になって考える努力をするようになった」というアテンダントの意識の変化はそのような世界へ向けて踏み出す最初の一歩となります。

「これからの当たり前」という可能性

「誰かの役に立ちたいと思う人は結構いると思うけれど、自分一人で大きなことをするのは難しいし、アイディアにも限りがある。でも同じような思いを持った人が集まるとたくさんのアイディアが生まれる。何よりも仲間に刺激されて自分でも考えてもいなかったようなことができるようになる」

自分から声を発し、他の人の声に耳を傾け、互いに意見を交わし、ともに実践する。True Colors Festivalにとってアテンダントは単なるボランティアスタッフという以上に重要な存在です。アーティストでも来場者でもなく、ただ「その場にいる人」としてできることをする。それが「障害」を減らしていくために必要なことで、「これからの当たり前」はそんな風に実現されていくのでしょう。だから、アテンダントは「特別」ではありません。いや、それが特別ではなく「当たり前」になっていく可能性をアテンダントは示してくれたのです。これまでの活動への最大限の感謝と、これからの活動への期待を述べて中間報告を終えます。一人ひとりが「その場にいる人」として行動することでTrue Colorsは続くのです。

文: 山﨑健太
撮影:冨田了平、西堀綾子

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